iPhoneとセカイカメラ(3)

空間アクセス=通信アクセスがARの基本コンセプトなのでは?

AR+クラウドがウェブの再構成になるだろうなと思ったのは、セカイカメラの最初のプロトタイプでヤフー地図のランドマークを空間表示した時でした。
そういう意味ではAR対応ブラウザーのモザイクを一生懸命作っているのだろうと思います。現実空間での移動がデータ空間へのアクセスに直結する様なブラウザ。これは無線インターネットアクセスとモバイルデバイスとがある程度使えるレベルになったからこそ成立する新しい環境の賜物です。

先日DCMのデビッド・チャウさん(元アップル)からお聴きしたお話がすごく印象的だったのですが、「ビルアトキンソンハイパーカードを発明した時にアップル社内でも評価がまっぷたつに別れた」お話でした。
つまりビジュアルプログラミングに限らず、マルチメディアプラットフォームであり、ハイパーテキストおよびネットワークブラウザーとしての偉大な可能性を秘めたハイパーカードも、発明当初の社内での反応は「凄い!」というものと「全く分からない!」とに二分した訳です。

しかもデビッドさん曰く、「僕はマルチメディアプラットフォームとしては可能性が理解できたけどネットワークブラウザーとしての可能性までは思い至らなかった」と。
ですから、その本質的な可能性を見抜くのは世界最先端のイノベーティブなチームに於いてさえ大変困難なのです。
特にテクノロジーイノベーションに強い筈の先端ユーザーだからこそ、それが難しいというジレンマがそこにあります。
そして、アップルは最初のインターネットブラウザーハイパーテキスト言語の世界標準を確立する機会を永久に失ってしまいました(逸話:数年経ってもそのポテンシャルに気がつかなかったスタッフもいたそうですし、実はいまだに世の中の理解を得られていないのかも知れません)。


かつて、キャラクターインターフェイス全盛時代があった

たとえば、マッキントッシュGUIを最初にもたらしたときのスローガンは「For the rest of us」です。当時はCUI全盛期だったので、コンピュターを使う=コマンドプロンプトを操作する。というのが前提でした。そしてGUIというのは、「ファイルをデリートする」「ファイルをコピーする」「ディレクトリを作成してファイルを整理する」などといった手順をコマンドラインからマウスによるビジュアル操作へと大きく変換した訳です。

ところが、その当初の評判は酷く、使い勝手というよりも生産性や効率性という点では巨大な疑問符が飛び交っていました。
それは、まぁ、当然の事で、マウスでアイコンをドラッグして操作する手順はコマンドラインを叩くだけのオペレーションに比べれば非常に間接的で無駄が多く冗長極まりない操作系なのです(COPYとかDELETEとかキーボードを叩くのと、ファイルアイコンをマウスを操作して移動後フォルダーに納めるとか、ゴミ箱に入れるとかする操作とを比べると、確かにその通りなのですね)。

ARの現在は、CUIからGUIへの移行期と同様の変革期なのかも知れません。新しいテクノロジーは最初は社会的異分子であり、現在のデファクトのアンチです。
CUIGUIに移行する迄はマウス操作なんて「面倒臭い」手続き以外の何ものでもありませんでした。そういった意味ではテクノロジーの先端にいる人間がイノベーションを支えるのか、それとも阻害するのか?は、一義的に決めかねる事柄だと言えます。
たとえば、先のデビッドさんもセカイカメラを使ってみて最初は「肩が凝るよね!」とおっしゃっていました。

そうなんです。 What You See is What You Get は肩が凝るのです。それに、そもそもiPhoneのカメラで現実空間を眺めて虚空のなかに別の存在(デジタル情報の印)を認める様子は、コンピューティングとしては相当奇妙です。その操作中のビジュアルを見てもコンピュータを使っているとはとても思えません(たぶん、写真を撮影しているという見え方)。


iPhone SDKの鋼鉄のカーテン

さっき米国のiPhoneデベロッパーからiPhone OSのAPIをAR対応にどんどん解放するアクションを起こそう!というとてもアツいメールをいただきました。
確かにそのメール主が指摘している様に、特にイメージ解析等の仕組みを導入しようとするとiPhone OSのSDK環境はまったくラチがあきません(セカイカメラはプライベートAPIを一切使っていませんから、現状では機能的な制約を受けていません)。
それは、ここ最近LayarやSeerなどのARアプリケーションが立て続けにアンドロイド環境向けに登場している動向からしても明らかです。

もしもARが新しいコンピューティングのデファクトになるとすれば、iPhoneはもしかするとその絶好の機会を失いつつあるのかもしれません。ただ、頓智・としては彼らのアクションに賛同して、iPhone OS API公開に向けてのオピニオンを積極的に提出していきたいと思っています。