携帯電話によるサーチ・インターフェイス その未来形としてのゲーム・メタファー

年末が近づくと何かといろいろ振り返りたくなる物で・・。07年に05年に振り返ったブログを再度振り返ってみたりして・・。長くてまとまりのないメモですが、何か形に出来ると良いなあと思っています。

07年に05年を(敢えて)振り返ってみる

06年から07年に切り替わって最初の一月もあっという間に終わろうとしています。過去を振り返って未来の糧にするという気分もお正月を過ぎると案外色あせてきます。
ですので、今日はいつもと趣を変えて「ちょっと前」の05年5月に準備していた新規事業のアイデアを「オープン化」しようと思います。それで、少しは「ちょっと先」に向けて役立つヒントになればと思います。

これは、当時ナンバー・ポータビリティ制度の実施が決まり、またネット広告の主戦場が携帯インターネットにシフトしていきそうな趨勢の最中に某VC向けにプレゼンテーションしていた構想の一端です。

また、それは、携帯電話という非常に制約のある物理リソースと操作性のなかでこそ、初めて可能な『遊べる検索インターフェイス』の実現と普及を目指したプロジェクト(「プレイグラウンド」というのが開発コード名でした)でもありました。

世界の「構造化」に萌え続ける

そもそも、起業以前の私個人の問題意識としては、最初にコンピュータ・プログラミングを知ったときからずっと「世界の構造化」という壮大なテーマに向き合いたいというテーマ設定がありました。
また、その為の手法として今までで一番インパクトがあったのがビル・アトキンソン氏による「ハイパーカード」と松岡正剛氏が提唱していた「物語OS」でした。

ビル・アトキンソン氏とは、神戸で開催されたTED4(テクノロジー・デザイン・エンターテインメント4)というイベントで一聴衆としてお目に掛かった程度なのですが、その創造物(=ハイパーカード)の設計思想にはとても影響されました。
現在のインターネット環境を先取りしながら、現時点でも未だに追いつけていない先進性を最初から持っていたプロダクトだと思います。
とにかく自らの世界観をビジュアル・プログラミングを通じて「構造的に」表現できるのは素晴らしい体験だと当時は思いました。

また、松岡正剛氏とは「世界中の物語を電子化する」オペラ・プロジェクト発の子プロジェクトとして当時開発中だった物語OSのプロトタイプ開発をご一緒させていただき、その類い希な発想力・構想力に強く感化を受けました。
また、物語の電子化という作業を通じて新しい情報環境を捉え直していくという着想・構想そのものにも、かなり刺激を受けました。

ですので、「世界(ワールドモデル)」の構築と「物語(ミームのプール)」のデジタライズというのは、本来的に自分自身のやってみたいことと強く結びついていました。

ケータイ向け『遊べる検索インターフェイス』とは?

ところが、今回お話しする「プレイグラウンド(新しいタイプの「遊べる」携帯用検索インターフェイス)」については、上述のような問題意識から発案したわけではなく、市場性や戦略的優位性の確保、将来的な価値連鎖などが、そもそもの考案のきっかけでした。

ですが、ふと気が付くと、実は今までビジョンとして追求してきたこととの関連性がしっかりあることに気付きました。つまり、携帯電話の検索行為をわかりやすく楽しいモノにしようとしたときに、仮想世界の物語構造という考え方がとても有効だったわけです。

ただ、そういった背景を過去に向かってさらに遡っても際限が無いですし余りに個人的な話になってしまいますので、ひとまず、この「プレイグラウンド」の起点になったふたつのプロジェクト案をご紹介します(プレイグラウンドの説明を兼ねて)。

「ダンジョンロールプレイング型のホームページ作成ツール」

起業以前に98年当時在籍していたジャストシステムで簡単な企画案だけ作成したのが「レゴブロックを組み立てるようにRPGのダンジョンのような個人用HPを作成できるツール」でした。

これは、まだ当時はDreamweaverなど影も形もなく、個人HPと言ってもBlogなんて便利なモノは存在せず、せいぜいGeocitiesとかTripodといった初期のコミュニティ・ツールしか無かった頃のアイデアです。

要するに「ロールプレイングゲームつく〜る」のような簡易で楽しいHTML作成ツールを配布するとネットユーザー同士のコミュニティ形成にきっと役立つだろうなぁ..と、思って発案したモノでした。 企画そのものは、即却下の憂き目(笑)にあうのですが、それからもずっとくすぶりつづけていました....。

「あらゆるブログを介した汎用型のネットオークションサービス」

弊社では2003年からブログ出版の事業を行っているのですが、その経験を元に「ハブ・アンド・スポーク方式」で「どんなブログツールからも利用可能な」「オープン式のインターネット・オークション・システム」のアイデアを特許申請しました。
そして05年頃から活性化し始めたWeb2.0ビジネスの可能性に着目した某VC担当者さんから投資の打診をいただいた際に、まず、最初に実現したいと思ったプランでした。

ただ、この事業プランは、検討すればするほど「初期投資が大きく、投資回収までの期間が短くない」ということが明らかになったので、改めて最初の「ロールプレイングゲーム式HP作成ツール」と「オープン式のブログ・オークション・システム」の両案をなんとかうまく昇華して、新しいシステムおよびサービスができないものか、しばらく考え続けたのです。その結果考案したのが「プレイグラウンド」だったのでした。

ゲーム空間構築によるおもてなし

そうそう、「プレイグラウンド」の話に進む前に「RPG型のHP作成ツール」について若干補足すると、当時企画案作成中に最も重視していたテーマがありました。それは「おもてなし」感覚でした。

つまり、ブログに於けるテキストや画像の替わりにRPGのトラップとかモンスター、宝物、巻物、金貨、呪文の書、鎧甲、刀剣などを配置して訪問者を待つ行為そのものが、「おもてなし」になるという発想でした。

ですから、機能的には、RPGの「ダンジョンづくり」というメタファーでHTMLを作成するツールでありながら、本質的な商品の位置づけ=「おもてなし」ツールだったのです。
あと、利用者の感覚としては、ブログのトラックバックのような相互通信によって、大勢のネットワークユーザー同士のダンジョン(ホームページ)同士が繋がっている。
つまり、大勢のユーザー達の創意工夫の結果が巨大なダンジョンを構成するという最終形が新しいコミュニティを構成するだろうと予測しました。

個人ストーリーのあるブログ・オークション

また、「ブログ・オークション・システム」というのは、原理的にはトラックバック・センターのようなオークション・サーバーが、あらゆるブログからの通信を受け付けてオークションの相互マッチングを解決する。そんな仕組みです。
要するに、入札や落札がTrackBackインターフェイスで行えるわけです。 特許情報DBを調べると、恐らく掲示されると思うのですが、

・ブログ・ユーザーの為のインターフェイスなので、コンテンツがひも付き、プロフィールも組み込まれたマーケットプレイスである(例:商品毎にストーリーがある)。

・ブログのセマンティックスを活用できるので、情報のリーチ効率がよい(ブロゴスフィア本来のファイダビリティが商品情報検索に大いに役立つ)。

・直取引以外にも、目利き、査定人、仲介者、セレクトショップ、格付け、保険など、ブロゴスフィアのオープン性を活かした新たな業態が発生し得る(オークションサービスの利便性が逐次向上していきやすい)。

などのバリュー・チェーンをビジネスモデル内に盛り込みました。

つまり、ヤフオクのようにクローズドな環境ではなく、モジュール単位で増改築可能、さらには様々なプレイヤーの参入が各階層であり得るというアドバンテージを最初から盛り込んだウェブ・サービス案でした。

そして、この2つのプロジェクトを総合して「ケータイ」+「ブロードバンド」環境の検索性向上を図るシステムとして再編集したのが「プレイグラウンド」だと言えます。

さて、プレイグラウンドとは?

・ゲーム的なキャラクターやパラメーターが統一的に扱える汎用ツール

・クローズドではなくオープンに利用できる汎用オークションサービス

この2つを統合するとどうなるでしょうか?

そうです。ケータイネット上のユーザー・エージェント(ポッド化されたソフトウェア・キャラクター)同士が自由にネット上のアイテムをオークション形式で売買できる。そんな環境が自然にイメージできます。

そうすると、単なる口コミ交換や仲間づくりだけでなく、オープンな市場を通じて、ゲーム空間の空間性や相互連携を活かした商業・流通が産まれる訳です。

既にエバークエストなどクローズドのゲームコミュニティ内の武器とかアイテムを特定のネット市場で売買するサービスはあります。また、そのための市場として特に米国の場合、eBayがよく活用されています。これはMMORPGの外部ネットワーク性と言えるでしょう。

ただ、「プレイグランド」では、ゲームユーザー・オンリーではなく通常の(MMORPGのような特殊なゲーム・サービスに限定せず)ユーザー層に向けてサービス提供しようと思いました。
また、ショッピング(あるいはオークション)なども、APIを通じて相互に接続できるようすることが重要になるだろうと考えていました。

もちろん、ここまでの内容だけをみると「ただオンライン・ゲームにイーコマースが付いただけでは?」「ハビタットの昔から、仮想都市ってうまくいった試しがないのでは?」などなど、突っ込んでいただけたかも知れません。
特に、デジタル・コンテンツやインターネットの過去に詳しい方には突っ込み所が満載です。

例えばしばらく前、ヤフー!に原価割れで購入をされてしまった某ショッピングモール(開始当初は楽天などよりもよっぽど脚光を浴びていた商社系モール)とか、その昔、フューチャーパイレーツが鳴り物入りで改行した仮想都市あるいはAOLの専用ブラウザーなどもそういった死屍塁々の一部だと言えます。

ブロゴスフィア全体をゲーム空間に「写像」すること

でも、プレイグラウンドではそういった「閉じた」バーチャルワールドを構築するつもりは全くありませんでした。
しかもそのゲーム空間をエンド・ユーザー自身に一生懸命制作をしていただくという、限られたサービス形態(MovableTypeのScriptを配布するような)にも特化するつもりはありませんした。

1)セマンティックウェブ的な仕組みを用いてブロゴスフィアをゲーム空間に置換(写像)する(つまりある種のプロキシーのようなもの)

2)ユーザー・キャラクターは、ボット的に固有のロジックとパラメーターを持って上記のメタ空間を動き回る(ウェブサービスは、このボット管理を行うために各種実装される)

かなり抽象的な説明で恐縮なのですが、こんな実現方法を考えていました。

また、さらに単純化して言うと、「ゲームのメタファーを通じて、現実セカイと向かい合うツール」 とでもいった携帯用検索インターフェイス(ただしゲーム空間を構成するためのサーバーや、そこでボット=ユーザーキャラクター同志をマッチングするメカニズムなども同時に実装・提供する)を提供しようと思っていたのです。
(ゲームのキャラクターを自らのエージェントにして、情報検索のためのボットとして育てていくことが、最終的には『遊べる検索インターフェイス』としてユーザーに受け入れられていくだろうと考えていました)

ビジネスモデルのオープン化

そして、意外と、この「現実セカイと向かい合う」というのが重要なのでは?と思っていました。恐らく、そうしないと「ゲームでゲームに向かい合う」「仮想で仮想にアクセスする」みたいになってしまい、それではあまり面白くならないだろうと思ったのでした。

どうも抽象的で掴みづらいエントリーになってしまいましたが05年当時、考えていたケータイ向けビジネスモデルの一部をざっとお話ししてみました。

そして、実はこのアイデアは現在進めているDS向けゲーム開発プロジェクトにも繋がっています。我ながら執念深いような気もするのですが、とにかく、こういうことをず〜っと考え続けているのはもの凄く楽しいわけですよね。

ここで述べたようなストーリーがどこかで誰かの役に立つといいと思うのですが、果たしてどうでしょうか?

稼働していないシステムについての話は、どうしても雲を掴むような感じになってしまいますね。機会があれば、具体的なサービス利用イメージなど、改めてエントリーを追加したいと思います。個人的には、こういった事業アイデアのオープン化から、また新たにビジネスが発生すると面白いと思っています。

エーテル化する任天堂のインターネットと“見えない革命”

ポケモンの醍醐味(あるいは本質的な娯楽要素)を敢えて二語であらわすとすれば、

「進化」と「交換」だと思います。

どうぶつの森の醍醐味を敢えて二語であらわすとすれば、

「労働」と「消費」だと思います。

いま企画を進めている開発プロジェクトでは、その二語に相当するものが何なのか?まだ全く見えていません。でも、きっととても良いゲームの土台というのは、非常にシンプルな概念で体系づくられているように感じます。

また、特にブロードバンドが普及し、ニンテンドーWiFiネットワークに代表される無線IPが当然のように携帯式ゲームの基本要素になりつつある現在、その楽しみ方の本質部分(=娯楽要素の核)が劇的に書き換えられるのを待っているような予感がします。

新しいネットワーク志向性について ゲーム側からの視点

でも、その未来像を考えるとき、現状のWeb2.0的な文脈にそのまま乗ることは決して近道ではないと考えています。要するに、「オープン」「ユーザー・ジェネレーテッド」そして「サーチ」といった、黄金律的なドグマとはまったく無縁に考える必要があると思っています。

たとえば、DSのフレンドコードは、その潜在的な可能性は別として、現状では「顔を知っているモノ同志のネットワーク」を形成するために使われています(※マリオカートのような対戦型ゲームではそのような制限が不要なので、フレンドコードを必要としません)。

また、そのことが子供文化あるいは家庭内のゲーム文化に接続するためのカギになっています。

セキュリティ社会への対応は、きっと技術的な実装だけでなくゲーム文化としての(ゲームのルールやマナーと不可分な)ソフト要素としても考慮される必要があったんだろうと思います。

そのように考えたときに、もはや子供ひとりに一台と言えるような状態になってきているDSプラットフォームはかなり面白味のある(=既存のネットワークビジネスの習慣的な思考方法を切り替える必要のある)携帯ネットワークであると言えるでしょうし、だからこそ、その環境ならではのユニークなゲーム性が構築し得ると言えます。

むこう側とこちら側を接続すること エーテル化するインターネット

たとえばPSPPS3がゲーム機そのもののイノベーションを邁進していることに比べると、任天堂が繰り出しているDSおよびWiiのゲーム環境は、より「むこう側」の新しい価値観を活用しようとする意欲を感じさせます。

ただそれが単なる「むこう側」への飛躍・増殖・パラダイムシフトではなく、むしろ「こちら側」の生活感覚、日常感覚を大切にしようとしていて、それぞれを非常にゆるやかな形で(娯楽産業ならではのスタイルで)接続しようとしています。

また、そういった試みの成果が、ここしばらくの業績好調の理由のひとつではないかと思います(ただし、据え置き型ゲーム機Wiiの場合はWiiコネクト24のコンセプトを見る限りは非常にPC+インターネット的な設計がなされており、一概に任天堂=非PC系のアプローチとはいえない)。

始まったばかりの“見えない革命”

ちなみに、現時点でニンテンドーDSでプレイできるWiFi対応ソフトは32タイトルがリリースされていて、ポケモン(ダイアモンド&パール)やどうぶつの森以外にもドラクエ・モンスターズなど数多くのヒット作が対応しています。

ただし、現状としては、これらのタイトルを巡る状況はあくまで普及促進フェーズであって(WiFiで遊べるから買う!という動機付けまでには全く至っていない)、ここから、本質的なゲームプレイの“核”としてニンテンドーWiFiコネクション(ニンテンドーの提供する無料の無線LAN環境の総称)が普遍化していくかと言えば、まだまだこれからだと思います。

そのときに、どういった娯楽性が新しいゲームプレイの本質部分にあるべきなのか?その問い掛けと、もう少し付き合いたいと思っています。最初の問い掛けにあった、本質的な娯楽要素=強味(コンピテンシー)が何なのか?それを考えることが当面のテーマになりそうです。