ジョブズが2009年1月のMacWorldExpo基調講演をやらない!なんということでしょうか!?これほどインパクトのある事件はそうそうありません(これに比べればアップルの新製品ニュースや株価変動なんて本当に取るに足らないことだと思えます)。

CNET「梅田望夫・英語で読むITトレンド」の「愛されるがゆえに心配されるアップルの経営」という記事があるのですが(4年前の記事です)、今改めて読み返してみると非常に興味深いです。下はそこに挙げられていた4つの大きな懸念事項なのですけど、

(1) iPodiTMSの成功に対して産業全体が反応する。つまり競争が激化する。

iPod生態系に対しての強烈な脅威というのは現在では見当たりません。強いて言えば「iPodの敵はiPod」「敵がいないのが問題(イノベーションが喚起しづらい)」というところでしょうか?

(2) 2006年のLonghornの登場がWindows 95登場時と同じようにAppleに打撃となる。

実際にはまったく打撃にならなかったというか、Leopardの熟成と評価はIntel Macの完成度向上と軌を一にして市場へと浸透していったと感じます。
もちろん、プラットフォームとしてはマイナー勢力なのは相変わらずですが、ニッチとはいえ販売シェアの着実な伸びとロイヤルユーザーの支持(=高利益率の維持)といった側面はむしろ当時より顕著だと言えます。

(3) Linux Desktopの台頭。2009年には、MacOSを模倣したLinux Desktopでかなりいいものが、世の中に出てくる。

Linux Desktopは思った程市場に受け入れられていないのが実情ではないでしょうか?本来であればVISTA苦戦とUPC台頭の状況下から、MacOSライクなLinux Desktopが広く支持を集めてもおかしくはない状況だと思います(※垂直統合的な製品作りでないと、あのルック・アンド・フィールは実現困難なのか?)。

(4) いまAppleはCPUをIBMに依存しているが、そのIBM半導体事業に不確実性がある。

これは皆さんご存知のようにIntel Macの着実な進化によって払拭された懸念事項ですね。しかも、iPhoneiPod Touchの進化はARM系のチップの採用とそのさらなる能力向上という形でIntel系の生態系にさえコントロールをされない領域獲得に結実している訳で、よりしたたかなチップ戦略を獲得しつつあるというのが現状です。

そういった現状を考えるとジョブズはかつての瀕死のアップルを救済しただけでなく、とても魅力のある事業ポジションにまで再生を施したと言えます。

ところが、だからこそというべきか、もしもジョブズのいないアップルというのを想像するのは非常に困難で、それこそ彼以上の先見性と辣腕で(この数年ジョブズが手掛けた様な眼も覚める様な手さばきで)アップルをイノベートしつづけられるような人物は、まずこの世の中には存在しないだろうと思います。